東京高等裁判所 昭和37年(う)2523号 判決
被告人 轟誠治
〔抄 録〕
論旨は、原判決引用にかかる本件起訴状記載の公訴事実中被告人に対する第一の恐喝の事実につき、原審の事実誤認を主張するものである。しかし、原判決挙示の関係証拠を綜合すれば原判決認定の事実は優にこれを認めることができ、記録を精査検討しても、原判決に事実誤認の疑は存しない。所論は、被告人は他の原審相被告人岡田圀夫及び同境勝志と共謀の上古谷政明を取り囲み、脅迫したことはない、と主張するけれども、記録を精査し、古谷政明の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書を仔細に検討すれば被告人が右岡田及び境の両名と意思相通じ、古谷政明を取り囲んだ上、被告人はややはなれて見張をなし、右岡田において原判決認定のごとく脅迫的言辞を弄して右古谷が猥褻写真一組の代金六百円の支払のため交付した金千円の返還を拒絶し、若し同人においてあくまでその返還を請求するときはその身体に如何なる危害を加えるかも知れない気勢を示して脅迫畏怖せしめ、もつて同人をしてその返還を断念させ、財産上不法の利益を得た事実を認めるに十分であつて、右認定に反する被告人の供述はたやすく措信し難いところである。ひつきよう、論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は原判決には法令適用の誤りがある。すなわち、原判決摘示のごとく、エロ写真売買のため古谷が原審相被告人岡田に金千円を交付したものとすればそれはとりもなおさず「不法の原因のため給付をなしたもの」に該当し、古谷としてはその返還を請求し得ないものであるから、同人としては原判示のごとき損害を受くべき財産上の利益は、はじめより存在せず、したがつて原判決が本件を恐喝罪と認定したのは違法である、というのである。よつて按ずるに、記録によれば本件は原審相被告人境において古谷政明に対し猥褻写真一組を六百円で売ると称して、同人より千円札一枚を受け取り、被告人において単なるグラビヤ印刷のヌード写真を交付したものであつて、右古谷において交付した金千円が全額猥褻写真の対価として支払われたものとはいい難いけれども、仮りに右金千円が所論のごとく猥褻写真売買のための代金として支払われたものとしても、その不法の原因は受益者たる被告人らについてのみ存し、買受人たる古谷には存しないことは刑法第百七十五条の規定の趣旨に照し明らかなところであるから、右古谷政明としてはもとよりその給付したものの返還請求権を失わないものといわなければならない。してみれば、原判決には何ら所論のごとき法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。(註、本件は量刑不当で破棄)
(藤島 山本 荒川)